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オンコロジー
AIを活用することで腫瘍特異的な標的となるネオアンチゲンの同定を可能にし、患者一人ひとりに真に個別化された免疫療法を実現します。
がん免疫療法は、体内にある自己の免疫システムを刺激してがん細胞を排除する治療法です。この数十年にわたり、がん免疫療法は臨床現場で高い有効性を示してきました。ネオアンチゲンを標的とする治療法は、その成功をさらに発展させる新たな治療アプローチとして期待されています。これらの治療法は、がん細胞に共通する抗原や患者ごとに異なる抗原を標的とするT細胞を活性化し、がんを攻撃する免疫応答を誘導します。近年では、新たな種類の抗原が次々と発見されており、より高い治療効果が期待される個別化治療への道を切り開いています。NEC Bioは、最先端のネオアンチゲン同定技術および予測技術を通じて、この分野の発展と実用化に取り組んでいます。

課題
がんは依然としてアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患です。がん免疫療法は、正常組織には存在しない腫瘍特異的な標的を活用して免疫システムによるがん細胞の排除を促す有望なアプローチです。しかし、患者の腫瘍情報から実際の治療へとつなげるには、いくつかの課題があります。
- 検出と優先順位付け:一つの腫瘍をシーケンスすると数百から数千の変異候補が見つかりますが、標的となり得るものはそのうちの数%にすぎません。そのため、候補を最も有望な標的まで絞り込むことが重要です。
- 患者ごとに異なる腫瘍・免疫学的特徴:腫瘍および腫瘍環境は患者ごとに大きく異なり、変異の多くも患者固有であるため、一例ごとに個別の対応が必要です。
- 結合予測だけでは不十分:有望な標的は、単にHLAへ結合するだけでも、T細胞応答を誘導するだけでも不十分です。有望な標的となる抗原は、適切にHLAに提示され、免疫原性を有し、腫瘍細胞に対する細胞傷害作用につながるT細胞応答を誘導する必要があります。
- スピードと精緻さの両立:精緻な生物学的モデリングには高い計算負荷が伴う一方、臨床試験の日程や患者ごとの製造には、迅速で再現性の高いターンアラウンドが求められます。個別化ネオアンチゲン療法プラットフォームには、その両立が必要です。
アプローチ
NEC Bioは、科学的根拠に基づく精緻な解析と、再現性の高い迅速なターンアラウンドを両立する製品を提供しています。
- 解釈可能な優先順位付け:一般的なバイオインフォマティクスパイプラインでも、患者一人あたり数千の標的候補が生成されますが、重要なのは、それらの候補を優先順位付けし、有望な少数を選び出すことです。我々は生物学的プロセスを包括的にモデル化し、そのモデルの評価を免疫原性および臨床活性の両面から行っており、すべて優先順位付けの根拠を説明できる形で実施しています。
- 柔軟性:全エクソーム解析(WES)、全ゲノム解析(WGS)をはじめ、さまざまな変異同定手法によるデータを入力として利用できます。また、個別化ネオアンチゲンから複数患者に共通する共有ネオアンチゲンまで、幅広い探索を支援します。
- 迅速かつ再現可能な予測結果:当社のプラットフォームは、モジュール型かつクラウドネイティブな設計を採用しています。変異検出から予測、優先順位付け、臨床報告までの各工程をクラウド上で独立して実行できるため、処理量の増加や複雑な検体にも、待ち時間を延ばすことなく、計算リソースを追加することで柔軟に対応できます。臨床向け品質管理およびレポーティング機能を標準で備え、再現性と監査可能性を確保するとともに、多施設臨床試験の要件にも対応できるよう設計されています。
- 臨床応用とNECによる長期的な支援:当社の予測プラットフォームは、現在進行中のNECバイオ自身の臨床試験を含む臨床開発プログラムで採用しています。また、本プラットフォームはNEC Bio自身の開発プログラムにも適用されており、長期的なプログラム運営を支える安定性とグローバルな事業基盤を有するNEC Bioによって開発・運用されています。
以下では、個別化ネオアンチゲン療法、共通ネオアンチゲン療法、および当社のデリバリープラットフォームにおける活用について詳しくご紹介します。
ネオアンチゲンとは
ネオアンチゲンは、がん細胞に生じる遺伝子異常や分子異常によって生成される抗原です。多くのネオアンチゲンは、がん細胞のDNAに生じた体細胞変異によってタンパク質配列が変化することで生じます。これらの変異由来ネオアンチゲンに加え、異常RNAスプライシングや異常翻訳などの非変異性メカニズムによっても生じます。
腫瘍関連抗原(TAAs)の一種であるがん-精巣抗原(CTAs)などの他の腫瘍抗原と比較して、ネオアンチゲンは腫瘍そのもの、あるいは特定の腫瘍環境に特異的であり、正常組織には存在しないという特徴があります。そのため、免疫システムによる自己寛容の影響を受けにくく、強い免疫応答を誘導できる可能性があることから、個別化がん治療における有望な標的として注目されています。
参考文献:

個別化ネオアンチゲン療法
AIを活用した免疫ゲノミクスの代表的な応用例の一つが、個別化ネオアンチゲン療法です。これは、患者ごとの腫瘍に存在する固有の遺伝子変異に基づいて設計される治療法です。NEC Bioでは、AIを活用し、がん細胞の情報をゲノムレベルで解析することで、患者特有のネオアンチゲン(がん特異的変異抗原 )となる可能性が高い変異を特定します。さらに、単に免疫応答を誘導する可能性が高いペプチドを予測するだけでなく、実際にがん細胞内で処理され、細胞表面に提示される可能性が高い抗原を選定します。こうして特定されたネオアンチゲン候補を総合的に評価し、有望な抗原を組み合わせることで、患者ごとに最適化されたがん治療の設計・製造に活用されます。このアプローチは、患者自身の免疫システムががん細胞を認識し、攻撃・排除する能力を高めることを目的としています。

IMMUNASIGHT®
現在広く用いられているネオアンチゲン予測手法の多くは、候補のネオアンチゲンとHLAとの結合親和性のみを考慮し、標的となるネオアンチゲンを予測します。しかし、結合親和性はペプチドが免疫原性を示すために必要な要素の一つに過ぎません。そのため、HLA結合予測の精度は向上しているものの、現行アルゴリズムによる免疫原性の予測は依然として困難な課題となっています。この課題を克服し、より高い確率で免疫原性を有するネオアンチゲンを同定するために、当社は結合親和性だけではなく、生物学的な合理性に基づく複数の評価指標を用いて、ネオアンチゲンの「質」を解析する独自手法を開発しました。
NEC Bioは、次世代シーケンサーのデータから真のネオアンチゲンを予測するAIエンジン「IMMUNASIGHT®」を開発しました。これより予測される抗原は、個別化ネオアンチゲン療法やがん免疫療法のバイオマーカーとして活用されます。当社技術の最大の特徴は、腫瘍細胞内で実際にプロセシングされ、腫瘍細胞表面上に提示される抗原を高精度に予測できる点にあります。この独自のアプローチは、臨床的に重要なネオアンチゲンを用いて検証されており、製薬企業パートナーの臨床開発における成功確率の向上に貢献しています。
さらにIMMUNASIGHT®は、一般的なT細胞抗原探索、患者の免疫プロファイリング、個別化ネオアンチゲン療法の設計にも活用可能です。モジュール型かつ計算効率に優れたプラットフォームとして、個々の患者のみならず大規模な患者コホートを対象とした抗原探索においても、高い拡張性とコスト効率を実現しています。
IMMUNASIGHT®の中核を担う機械学習ベースの主要技術については、以下のセクションで詳しくご紹介します。 [T細胞エピトープ予測]

共通ネオアンチゲン療法
シーケンシング技術の進歩により、腫瘍を詳細に解析し、その情報に基づいて個別化ネオアンチゲン療法の設計を迅速に実施できるようになりました。個別化治療では、がんの不均一性や変異プロファイルを反映した患者特異的な複数のがん抗原を組み込むことができます。一方で、患者ごとに薬剤の設計・製造する必要があるため、コストや幅広い患者への提供という課題があります。その代替として、複数の患者に共通するがん抗原を標的とする、すぐに使用可能な共通ネオアンチゲン療法への関心が高まっています。しかし、従来のネオアンチゲンの多くは患者特異的であり、複数の患者に共通して認められるものは限られています。共通がん抗原の代表例としては、がんの発生や増殖を促進するドライバー遺伝子に由来する共通変異があげられますが、そのような変異も一部の患者集団に存在するにとどまります。
この課題に対応するため、NEC Bioは、これまで十分に探索されてこなかったゲノム領域である「ダークゲノム」に着目し、がん特異的なゲノム変化から生じる共有ネオアンチゲンを探索しています。近年の研究では、ダークゲノム由来抗原の一部は、患者間で共有されつつ、高い腫瘍特異性および免疫原性を示す可能性が報告されています。(*1)。NEC Bioは、独自の抗原探索・予測技術を活用し、従来の標準的なネオアンチゲン探索で特定できる範囲を超えて、予測可能ながん特異的共有抗原のレパートリーを拡大しています。
NEC Bioは、独自のネオアンチゲン予測技術を活用し、ダークゲノム由来抗原を予測する独自ツールを開発しました。このツールとがん患者由来の検体を組み合わせ、複数の患者で発現している有望な共通がん抗原を特定しています。これらの共有がん抗原を活用し、共通ネオアンチゲン療法の開発を目指しています。

抗原デリバリーシステム
NECVAX-NEO1: 経口投与型の個別化ネオアンチゲン療法

NECVAX-NEO1は、臨床的に検証されたプラグアンドプレイ・プラットフォーム技術に基づいており、経口投与が可能で患者にとって使いやすい設計となっています。また、細菌キャリアによる自己アジュバント効果も備えている点が特徴です。患者ごとに最適化された小規模かつシンプルな製造プロセスにより、短期間でのワクチン製造が可能です。この技術は、あらゆるサイズのかつ多数のネオアンチゲンを標的とすることが可能で、個別化されたネオアンチゲン標的ばかりでなく共有化されたネオアンチゲン標的にも適用可能です。抗原エピトープは、HLA分子を介して樹状細胞表面に提示され、抗原特異的なCD8+T細胞を活性化します。活性化されたT細胞は、標的抗原を発現する細胞に対して細胞死を誘導し、免疫応答を促進します。
TG4050: ウイルスベクター型の個別化ネオアンチゲン療法

TG4050は、フランスのバイオテクノロジー企業Transgene社との共同開発によるものです。Transgene社のワクチンプラットフォームは、臨床的な安全性と有効性において長年の実績を持つMVA(改変ワクシニアウイルスアンカラ株)を使用しています。AIによって同定された標的抗原は、ウイルスゲノムにクローニングされ、投与後すぐに患者体内で発現します。がんの標的抗原と非病原性ウイルスを組み合わせることで、ウイルスに対する免疫系の自然な感受性を利用し、がんのネオアンチゲンに対する強力な免疫応答を誘導します。このウイルスは大量の遺伝情報を搭載できるため、幅広いがん標的を含めることが可能であり、腫瘍の種類に応じた柔軟な対応が可能です。また、耐性のリスクを低減する効果も期待されています。
ICTプラットフォーム
NECは、ネオアンチゲン予測技術に加え、個別化治療の製造・提供を支えるネットワークやサイバーセキュリティをはじめとする幅広い研究開発に取り組んでいます。

個別化ネオアンチゲン療法の実現に向けた課題:製造と提供
個別化ネオアンチゲン療法の製造では、患者さんのゲノムデータを解析し、その患者さんに合わせた医薬品を設計・製造します。そのため、患者さんごとに製造された適切な医薬品を適切な患者さんに確実に投与することが極めて重要です。また、この分野では、膨大なゲノムデータの管理やサイバーセキュリティ対策に加え、高度化・複雑化する製造プロセスの品質管理や、競争力のあるターンアラウンドタイムの維持など、多様かつ複雑な課題が存在します。これらの課題を解決するためには、ワークフロー全体のデジタル化が不可欠です。NEC Bioは、このデジタル化を支えるICT技術およびプラットフォームの研究開発に取り組んでいます。
総合ワークフローの必要性と重要な観点
NEC Bioでは、商用での個別化ネオアンチゲン療法の製造を実現するために必要な多様なプロセスを「総合ワークフロー」として定義し、その実現に向けて重要となる観点を提案しています。これらの観点には、患者さんごとに製造された医薬品を適切な患者さんに確実に投与するための「Chain of Identity」や、極めて機微性の高い個人情報である大量のゲノムデータを安全かつ適切に管理するための枠組みが含まれます。また、研究開発やイノベーション、将来の治療法開発の加速につながるデータの二次利用の促進など、次世代のがん治療プラットフォームの実現に貢献し得る新たな観点についても提案しています。
NEC BioのICTプラットフォーム技術
総合ワークフローの観点に対応するためにNEC Bioは、データの適切な保護手法や生体情報を用いたChain of identiyなどの最先端の技術開発とその実証をすすめています。例えば、NECが開発した高度ネットワーク暗号化技術は将来的な量子コンピュータによる暗号解読のリスクも考慮された技術であり、安全なデータの通信を可能とします。また、NEC独自である、生体情報を用いた署名技術は生体認証と電子署名を同時に実現することにより患者と医薬品の確実な紐づけを実現します。これらの技術の臨床試験や個別化がんワクチン製造工程での検証を通して、将来の個別化ネオアンチゲン療法のさらなる高度化を推進します。
総合ワークフローの必要性、主要な観点、NEC Bioの先進的なICTプラットーフォーム技術の詳細はホワイトペーパーを参照ください。